弁護士大久保康弘のブログ

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安部龍太郎「等伯」

今回は安部龍太郎の「等伯」を取り上げます。

この作品は日経に連載され2012年の直木賞を受賞していますが、これまで読んだことはなく、たまたま何か時代小説を読もうと思っていた時にこの作品に思い当たり、読み始めたのですが、ちょうどタイミングよくNHKの「日曜美術館」で「熱烈傑作ダンギ等伯」が放映されることを知り、それを見てから下巻を読みました。

等伯 上 (文春文庫)

等伯 上 (文春文庫)

 

 

 

等伯 下 (文春文庫)

等伯 下 (文春文庫)

 

等伯能登に長谷川信春として生まれ、絵仏師として活動していましたが、やがて上洛します。

能登の時代は、信春が後の等伯であることすら最近証明されたことからも分かるように、記録はほとんどなく、ただ作品が残るのみです。

上洛した頃は、信長と浅井・朝倉が戦っていた頃で、この小説では等伯戦乱に巻き込まれ、比叡山の焼き討ちにも居合わせ、そこで九死に一生を得ていましたが、このへんはフィクションなのでしょう。

最終章は、日本美術の最高峰のひとつである「松林図」の創作を描いています。早世した息子の久蔵の死の後で書かれたこの画を完成させるところで小説は終わっています。

「松林図」ですが、遠近法も使わず、奥行きが感じられない二次元的な当時の画の中で、ただひとつこの画だけは三次元的な奥行もあり、さらに三次元を超えて、時間軸まで含まれた四次元的なものを感じさせます。

 ほとんど史料もないなかでよく等伯の人生をフィクションとして描いたと思います。

 

 

山形浩生氏のブログでマイケル・コーニィ作品が取り上げられていた件

山形浩生の「経済のトリセツ」はよく読んでいるブログの一つですが、今回のエントリでは、マイケル・コーニィの2作「ハローサマー・グッドバイ」「ブロントメク!」が取り上げられており、私も昨年コーニィの「ハローサマー・グッドバイ」を再読し、続編の「パラークシの記憶」も読んだので今回取り上げることにしました。

ただし山形氏のマイケル・コーニィに対する評価はあまり好意的なものではありません。若いうちに読むと共感するかもしれないが、というような評価です。

「コニイはたぶん十六-十八歳くらいのための作家ではある。その頃には、この身勝手でだらしないナルシズムは本当に心に響いたかもしれない。」

 

この「ハローサマー・グッドバイ」は、私はサンリオ文庫で、20代の頃に読んで感激しましたが、なるほど山形氏のいうように大甘かもしれません。河出文庫の表紙もこの年になって読むのは恥ずかしいようなものになっているし。 

 

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

 

 

 

山形浩生 の「経済のトリセツ」

私はハローサマー・グッドバイが大好きですが、20代の時に読んだからかな。

2017/02/28 08:10

 

で、「ハローサマー・グッドバイ」の続編がこちら。

 

パラークシの記憶 (河出文庫)

パラークシの記憶 (河出文庫)

 

  

こちらは、まあ昔は翻訳がなかったので、若いうちに読むものだと言われても読めなかったわけですが、2013年にようやく邦訳され、昨年ようやく読む機会が巡ってきました。

で、読むならやはり「ハローサマー・グッドバイ」からということで。夏休みに福井に行った時に読み始めました。

「ハローサマー・グッドバイ」は、前半の、少年が夏休みに思い描く夢のような日々から一転して、酷寒の状況となってしまうのですが、ラストの1頁が強烈で、きちんと説明されるわけではないけれど、希望的観測からすればこのように考えられる、いやきっとそうだ、そうだと信じる、というようなエンディングになっています。これ以上に、悪女の思わせぶりのような、それゆえ強烈に引きつけられるエンディングは他に類例をみないと思います。

そして続編の「パラークシの記憶」は、「ハローサマー・グッドバイ」からかなり年代を経た、同じ世界での物語で、同じようにボーイズ・ミーツ・ガール物語が展開されるのですが、途中でこの世界の成り立ちの秘密が明かされます。

そしてその秘密は、それを知れば、「身勝手でだらしないナルシズム」など吹っ飛んでしまうようなものでした。この続編は、前作に比べれば、読者もいい気になるのではなく、自己相対化を余儀なくされるものとなっており、それゆえ、ある程度の年をくった読者にとっても読む価値があるといえるのではないでしょうか。

 

 

四大陸男子フリー

続いては男子フリー。SPではネイサン・チェン、宇野君の2人が100点台、3位の羽生君が97.04という高い得点で、フリーも高いレベルでの大熱戦となりました。

放映は田中刑事から。冒頭の4Sが3回転、2回転となってしまい、後半でも2回転となるなど、最後までジャンプの抜けが目立ってしまいました。142.63と

ジェイソン・ブラウンは、冒頭4Tを回避し、3A+2T、3A、2Aとアクセルを続ける構成にして、綺麗にまとめてきました。素晴らしいバレエジャンプも見ることができました。165.08でトータル245.85。

次はミーシャ・ジー。この人も3A、3Aハーフループ3Sというジャンプ構成で、ステップに全力投球。157.56でトータル239.41。

さて最終グループの6分間練習では、画面下にジャンプ構成が表示され、誰が何本4回転を跳ぶかという煽りが。「真・4回転時代」だそうですが、とんでもない時代になったものです。

最終グループ第1滑走はボーヤン・ジンから。

4回転5本に挑戦するプログラムでしたが、4Lz3T、4Sは成功、4Lo、4Tは転倒、4T2Tは成功と3本は成功しました。ただ後半はジャンプするのに精いっぱいという感じ。TESは100超えもPCS77.44しかないので点が伸びません。176.18でトータル267.51

続いてはパトリック・チャン

冒頭の4T3Tは素晴らしく、3Aもクリアしましたが、次の最近チャレンジするようになった4Sで転倒し、4T転倒とジャンプは不調。 滑りはとても美しかったのですが、何せPCSは上限があるだけに、2種類の4回転にチャレンジしたのですが、なかなか成功とはいきません。179.52でトータル267.98。

 そしてハン・ヤンですが、自信のある3Aからだったがお手付き。4Tステップアウトなどなかなかジャンプが安定せず、後半の3Aもシングルになってしまいました。3Aはもろ刃の剣というか、高く跳ぶ選手ほど抜けてしまうことがあるようで、今日のハンヤンはまさにそれ。フリー151.37で235.45は10位と順位を下げてしまいました。

さあ、いよいよトップ3の登場です。

まずは宇野君。さあ冒頭、4Loに挑む、というところでわくわくさせてくれます。どうか。決めた、すごい。4Fも綺麗。すごいな。と感心して見ていましたが、しかし後半3Aで転倒。4Tも単独になり、4T3Tは見事決めましたが、3Aはコンボにならず。コンボが1つだけしかなかったので、TESは98.69と残念ながら100には届きませんでしたが、試合ごとに成長していく感じは素晴らしいものです。

 演技終了直後は悔しさいっぱいでしたが、キスクラでは晴れ晴れと。フリー187.77、トータルは288.05。

次はいよいよ羽生君。冒頭4Loを綺麗に降り、4Sも綺麗に決め、3Fも決め、このあたりは淡々と高難度の技を決めていました。そして後半、4Sの予定が、SPと同じく抜けてしまい、1ループをつけたがそこで終わってしまった。うーんこれはどうかと思ったが、続いて4T、3A3Tを決め、そしてここからが圧巻。何と3Aからのコンボを4T2Tに変更。後半のこんなところで4回転を入れるとは。そして最後は3Lzではなく3Aで締めるという。リカバリーというにはあまりにすごい構成。TESは112.33で、PCSは94.34。フリーは206.67、トータルも300超え303.71。さすがに羽生、これは優勝だと誰もが思ったのですが。全日本で見たかったなあ。

さあ最後はネイサン・チェン。これも冒頭から4Lz3T、4F、4T、4T2Tと4連続4回転、しかも全部成功、という凄まじいジャンプ構成で攻めます。そして圧巻は後半で、3Aからの3連続を挟み、次が何と4S。羽生君のジャンプ構成変更を知ったか、チェンもまた演技構成を変え、後半に4回転を入れてきて、合計5本の4回転としたのです。TESは115.48、そしてPCSも88.86と高い評価を得ており、このあたりはボーヤン・ジンと違うところです。

これだけのハイレベルなジャンプ構成だと200点を超えるのは間違いなく、さあ羽生君とどっちが、というところで、フリーの得点が出ました。204.34、ということは、トータルで307.46、羽生君を上回り優勝。

 ものすごい戦いでした。フィギュアスケートは基本的には自分との戦いですが、今回は見事な熱闘を見せてもらいました。

 

 

四大陸男子SP

さて男子ですが、SPは、ミスが目立った女子とは異なり、100点超が2人、97点一人と、なかなか充実したものとなりました。

テレビで放映される選手は限られており、今回放映されていない選手で気になったのがケビン・レイノルズ。一昔前には4回転の申し子と呼ばれたこともあり、大阪での四大陸では優勝しこれからという時にケガをしてしまい、しばらくケガで休んでいる間に世間はすっかり様変わり。4S3T、4Tと4回転を2本入れているのですが、それでも76.36にとどまり、12位。

放映は田中刑事からスタート。冒頭4Sが回れず3Sになってしまい、77.55で11位発進となってしまいました。明らかに全日本の時と比べて動きが硬かったような気がします。

そして四大陸で最大の目玉がマイケル・クリスティアン・マルティネス。日本でもおなじみになった一度みたら忘れられない個性的なフィリピンの選手。今回も見事なビールマンスピンを披露し、72.47で12位。 

さていよいよ「全米に衝撃が走った」ネイサン・チェン。まだ国際大会の経験が少ないため、最終グループではありませんが堂々たる優勝候補の一人。例によって冒頭から4Lz3T、4Fと恐ろしく基礎点の高いジャンプを連発。この2つで何と30.20!そして何よりこの2つのジャンプが安定しているので、基礎点は53.15。PCSも43.54となかなかのもので、103.12で首位。

ホクスタイン、ジェイソン・ブラウンとアメリカ勢が続きます。ブラウンは4回転なしですが、とにかく見ていて面白い。バレエジャンプとか足挙げスピンが見物。80.77で9位。

さて最終グループ。第一滑走は羽生君。冒頭の4Loは素晴らしく綺麗に決まったのですが、2つめの4Sが回れず2S+3Tになってしまいしました。しかしセカンドに3回転を付けたのは偉かった。最後の3Aは安定。2つ目がせめて3Sだと100を超えていたのでしょうが2回転の分、97.04と100に届かずじまいとなってしまいました。

宇野4Fを綺麗に決めました。これは安心して見ていられます。続いて4T3Tも決めて、全体的にいい動きでした。100.28と、時間の問題と思われていたSP100点超えを果たしました。SPは2位。 

パトリック・チャンは冒頭4Tが回転不足で転倒となってしまいました。このミスが響き 、88.46にとどまりました。

続いては ハン・ヤン。この人のシニアデビュー当時、大阪で開催された四大陸で3Aの素晴らしさに息をのんだものです。4Tを前半に、3Aと3Lz+3Tを後半にするという構成でした。84.08

続くミーシャ・ジーは4回転がないのですが、相変わらず見せる演技で81.85。

最終滑走はボーヤンジン。4Lz3T、3A、4Tとジャンプ構成は難易度が高く、基礎点も高く、91.33とまずまずの得点が出ましたが、ネイサン・チェンと比べて、あまり演技に面白みがあると思えないのが残念です。

四大陸選手権女子フリー

続いては女子のフリーです。

三原以外の日本代表、樋口、本郷の2選手は精彩を欠く演技でしたね。樋口など何が悪いのか分からない、といった感じで大泣きしていましたが、樋口は世界選手権代表なので立て直してほしいものです。

最終グループは、長洲、三原、チェ・ダビン、オズモンド、デールマン、トゥルシンバエワの順でしたが、結構この滑走順が影響したところが大きいのではないでしょうか。

まずは長洲がノーミスの演技で132.04という高得点。この演技が全米でできていれば、というところでしょうが、ようやくバンクーバーで4位になった当時の輝きが戻ってきたというところ。

続いて三原舞衣。シンデレラの曲を選んだのは、シンデレラストーリーの主人公を演じたいという願いではなかったようですが、本当にシンデレラストーリーの主人公になったところが面白い。このブログでもグランプリシリーズのアサインが出たときには2試合自力で出ることに驚いたと書きましたが、本当にここまでの活躍は予想していませんでした。

今回も素晴らしいスピードのある演技でノンストップのシンデレラストーリーが演じられました。トランジションなどはまだまだですが、しかしその段階で134.34という高い得点を出すのだから凄い。

トータルで200.85と200点を超えました。日本の女子で200点を超えたのは、浅田真央、安藤、宮原に続く4人目ですから堂々たる一流選手になりました。達成感がある表情で、後の選手の演技を待ちます。

チェ・ダビンも自己ベストを上回る120.79と母国開催の期待に応えた演技になりました。

さてトップ3ですが、オズモンドは途中からジャンプの感覚がおかしくなってしまったようで転倒を繰り返して4点の減点で115.96。

デールマンは冒頭の3T+3Tが勢いがあり素晴らしい前半の出来でしたが、後半の3Loが抜けてシングルになったのが痛く、128.66と130には届きませんでした。トータルでは196.91と三原舞衣とは4点弱なので、あの3Loが抜けたのは実に大きかったことになります。

トゥルシンバエワは、最初からジャンプの感覚がおかしく、立て直すことはできませんでした。109.78とかなり低い得点でした。

そしてこの瞬間、三原舞衣の優勝が決定。まさにシンデレラ・ストーリーでしたね。

 

 

 

四大陸選手権女子SP

四大陸選手権というのは、昔はどちらかというと2番手の選手や若手が派遣されていたため、地味な扱いで、地上波での中継もほとんどありませんでした、2007年、日曜9時にオンエアされていた「発掘あるある大事典」という番組が納豆ダイエットのやらせ問題で突然打ち切りとなって枠が空いた時ですら中継されないという大会でしたが、今大会は羽生選手のおかげで4日連続ゴールデン放映となりました。

まずは女子のSP。

上位陣にも結構ミスが多かったのですが、カナダのデールマン、オズモンドという2人と、三原舞衣で上位3人が決まりか、と思っていたら最終滑走の最終滑走のトゥルシンバエワの演技が予想外に良く、トップ3に入ったのには驚かされました。

しかしオズモンドのカナダ選手権の80点超えのスコアですが、今回は2Aで転倒したとはいえ、あとの要素は問題なかったのに68点台ですから、カナダ選手権の80以上はかなり盛ったものであることが立証されてしまいました。

各国の国内選手権は、カナダは10点増し、ロシアと全米が3点増しといったところでしょうか。全日本は国際基準とあまり変わらない印象です。

 日本勢の3人は、三原が素晴らしい演技でしたが、本郷、樋口の2人は残念ながら不本意なできとなってしまいしまた。ただ本郷は冒頭のジャンプでフリップが2回転になってしまったので後半の単独ジャンプをルッツにしたのは偉かった。樋口は、ジュニア時代の怖いものなしの勢いがみられないのが残念です。

 

「高坂正堯と戦後日本」を読んで

 

高坂正堯と戦後日本

高坂正堯と戦後日本

 

 高坂先生は私のゼミの恩師でしたが、1996年に62歳で亡くなられたので、没後20年で出された本ということになり、その業績がいろんな角度から論じられています。

第一部は論文で、各章の見出しを並べると、

高坂正堯の戦後日本(五百旗頭真

外交史家としての高坂正堯細谷雄一

現実主義者の誕生(刈部直)

社会科学者としての高坂正堯(待鳥聡史)

高坂正堯の中国論(森田吉彦)

高坂正堯のアメリカ観(蓑原俊洋)

二つのメディア変革期と高坂正堯武田徹

権力政治のアンチノミー中西寛

となっており、

第二部が思い出編となっており、猪木武徳入江昭田原総一朗の各氏がそれぞれ思い出を語っています。

このうち、特に興味を持って読んだのが序章の「高坂正堯の戦後日本」でした。

戦後の国際政治に関する論文など腐るほどあるのですが、今でも読む価値があるものはほとんどなく、高坂先生の論文はその数少ない例外なのですが、それが時代とどのように関連していたのかを読み解いていきます。 

戦後日本のいわゆる論壇状況は、最近では竹内洋氏の「革新幻想の戦後史」などの仕事で振り返ることができますが、革新幻想にとらわれない現実主義者としての歩みがつづられています。

ここにもあるように、高坂先生は何人かの首相のブレーンのような立場にあったのですが、ちょうど私が大学で国際政治学の講義を聞いていた頃、大平正芳首相が現職で亡くなられるということがあり、講義終了後そのまま記者会見となって驚いたことがあります。そういえば、この国際政治学の講義は、近くの雀荘のおばちゃんが毎回聞きに来られていたことを今思い出しました。

ところで以前、中井久夫氏の書かれた文章の中に、京大の法学部で同期だった(中井久夫氏は大学に入学した時は法学部だった)高坂先生と小室直樹氏の思い出を語ったものがあり、なつかしい気持ちで読んだことを思い出しました。