さて今回が問題の「読まなくていい本」の読書案内です。
「読まなくてもいい本」の読書案内:知の最前線を5日間で探検する (単行本)
- 作者: 橘玲
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2015/11/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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面白くて一気に読んでしまいました。「読まなくていい本」というのは、少し前なら必読書と言われていたようなものでも、今は読む価値がないものが多く、今はこの分野を読んでおくべきだという意味ですが、その分野は以下の5つ。
・複雑系
・進化論
・脳科学
・功利主義
まず複雑系は、フランス現代思想のドゥルーズガタリのいうリゾームとも近いのですが、今ならマンデルブロを読んでおくべき、ということでしょう。フラクタルは以前から聞いて知っていましたが、正規分布とべき分布の話は少し前にタレブの「ブラック・スワン」などで知りました。べき分布の例として魚の生存年数を思いつきましたが、なるほど自然界では普通にみられるものですね。多産多死で、たいていは卵のうちに食べられてしまうので、べき分布になります。
進化論はグールド、ドーキンスというスターを生み出し、私もこの分野の本は何冊か読みました。たしかにポリティカル・コレクトネスは一種の宗教みたいなものですから、原理主義的キリスト教と同じく進化論とは相性が悪いというのはよくわかります。
ゲーム理論は以前から有名ですね。
問題は脳科学で、どうも脳科学と聞くとモギーの顔が頭に浮かぶのと、いったいどんな研究をしているのかよくわからないので、何だかうさんくさいと思っていたがそうではないようです。
アメリカで猛威を振るったトラウマ理論の批判がここでされていますが、これも。
最後の「功利主義」というのは分野としては現代のアメリカ思想というジャンルで、むしろサンデルなどのいう「公共哲学」の中の一つの勢力というべきでしょう(他の勢力はリバタリアニズムとコミュニタリアニズム)。
この本で強く印象付けられたのは、一種の宗教であった近代が、科学的に乗り越えられているということです。脳科学や進化論は人間の動物性が強調される分野であり、人間至上主義が終焉を迎えたということでしょうか。人間の終焉というのはフーコーも言っていましたが、このような終焉を意味していたのではなかったような気がします。
先日、小林秀雄についての本を読んで、ロマン主義こそが日本の近代を作ってきたこと、日本のリベラルの主流は「ロマン主義的リベラル」であったのではないかということを考えたのですが、これもロマン主義の一形態であるポリティカルコレクトネスと同様に、終焉を迎えているのではないか、ということを予感させる本でした。