この著者の本は結構読んでいますが 、 このブログで取り上げるのは初めてです。
芥川賞を受賞した全作品についてコメントするとともに採点したもので、労作です。著者は評伝でも定評がありますが、学者らしく堅実な仕事が多く、これもその一つです。何より読書の指南として役に立つのが有難く思います。
小説の評価の基準は人によりさまざまだと思われますが、この著者は、切実さを感じさせるものを高評価しているのではないでしょうか。
この中で高評価だった「伸予」は読みましたが、確かに切実でした。
また、たまたま家にあって忘れられていた長嶋有「猛スピードで母は」を読んでみましたが、芥川賞らしくつまらないというか、だらだらと中途半端な作品でした。角田光代の初期の作品もそうですが、「芥川賞チューニング」というのは確かにあって、わざとつまらなくしてしまったような作品は、確かにあると思います。
近年珍しい私小説作家として評価の高い西村賢太も、「けがれなき酒のへど」を読んだときは、あまりの面白さに仰天したものでしたが、それに比べて芥川賞受賞作である「苦役列車」は、あまりひねりもなく面白さに欠けており、見事に芥川賞の伝統にのっとった授賞といえるところが何ともいえません。