久し振りに読書の記事です。
上下巻合計で1200頁以上ある超大作。ウィキペディアにこの作品の項目がありますが、かなり適当な内容で、まあ別れる理由ほどではないにせよ、通読した人は少ないのではないかと思います。そのくせ朝ドラ「純情きらり」の原案となったので、買ったのに読めなかった方も多いのではないでしょうか。
私はたまたま長い小説が読みたくなり、ブックオフで買って部屋に積んであったこの本を読むことにしたのですが、案外面白く途中で挫折することはありませんでした。
作者は太宰治の娘ですが、自分の母方の一族をモデルにしており、有森勇太郎、笛子、杏子、桜子のきょうだいを中心とした歴史を、勇太郎の回想録を中心にしながらも、最初から最後まで一つのテキストというものではなく、勇太郎の父の富士山に関する叙述など、さまざまなテキストが重層的に重ねられ、またその一つのテキスト内でも途中で話者が変わるなど、いろんな旋律が重なり合ったような描写がなされています。
そのあたりは混乱する人もいると思いますが、私はむしろ退屈せずに済みました。
著者の父である太宰をモデルにしたと思われる画家も出てきます。松本竣介の友人として描かれているところが面白いです。
この時代らしく、若くして死を迎える人物も多く出てきますが、それが対照的に生きている人物を照らしているところも読みごたえがあります。