今回の読書記録は、原武史「最終列車」です。
この著者の本はかなり読んでいます。宮脇俊三亡き後、鉄道ものの書き手として貴重な存在となっています。
ただ宮脇俊三の時刻表2万キロの時代に比べ、かなりの路線が既に廃線となり、さらにコロナ禍でさらなるローカル線の廃止が議論されるようになっています。
この本では、東浩紀の「観光客の哲学」などを引きながら、公共空間としての鉄道の価値を強調しています。
例えば只見線の風景などは非常に価値が高いとされています。
ただ問題となるのが、ローカル線の採算性です。先日JR西日本が、線区毎の収支を発表しましたが、芸備線の東条から備後落合間などは収支係数が25,000、収支率0.4パーセントというとんでもない数字になっています。
私は鉄ちゃんなので、このような収支が発表されても是非残してほしいと思うのですが、問題は、採算性の悪さそのものより、「ローカル線に採算性を求める世論の強さ」と思います。
このような問題が出ると、別に経営者でもないのに、採算性が悪い路線は廃止すべき、という論を出す方が多いのです。
これに対し同書では、交通経済学者の宇都宮浄人氏の発言に触れ、以下のように述べています。
「欧州では鉄道を収益事業ではなく、社会インフラと位置付け、赤字線に新規投資するのに対して、日本では相変わらず道路にばかり公的資金が配分され、鉄道は独立採算を原則としている。コロナ禍による鉄道業界の業績悪化ぎ避けられないならば、この特殊日本的な鉄道観はいっそう改められなくてはなるまい」
同感ですが、より大きな視点では、赤字の事業に資金の投入をすることに反対する風潮は鉄道に限ったことではなく、大学での研究などもそうなので、無駄をなくし、プライマリーバランスの改善を目指そうと考える日本人の発想を改善する必要があるのではないでしょうか。