今回は、最近読んだ本の中から政治関係の本を2冊取り上げます。
いずれも最近、人文関係の優れた研究書を出している中公新書です。
自民党について手堅くまとめた研究書。各項目ごとに、研究の基礎資料とするにはいいが、通読するのはかなりつらかったです。舞鶴からの帰り、スマホの電池が切れたこともあり、何とか読みましたが。
ポピュリズムとは何か - 民主主義の敵か、改革の希望か (中公新書)
- 作者: 水島治郎
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2016/12/19
- メディア: 新書
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この本も途中まではそれほど面白く感じなかったのですが、第4章の「リベラルゆえの「反イスラム」ー環境・福祉先進国の葛藤」という章になって、俄然熱を帯び面白くなりました。
この環境・福祉先進国とはデンマーク、オランダのことですが、著者がもともとオランダ政治の専門家だということもあり、かなり深く掘り下げられています。何より、この2つの国のポピュリズム政党が、極右とは明らかに距離を置き、デモクラシー的諸価値を前提として成立した政党だということである(107頁)という点が興味深い。
この両国は今やヨーロッパで最も移民に厳しい国に分類されているということですが、その原因は、この両国のポピュリズム政党の理論武装がしっかりしており、本来のヨーロッパのキリスト教に基づくリベラルであるがゆえに、イスラムとは対立せざるを得ないという主張をし、この主張が国家レベルでも認められていることにあるといいいます。
確かに、西欧諸国はキリスト教の価値観で成り立っており、それゆえ昔は十字軍などで衝突していたのでした。したがって、現代においていかに価値観の多様性を認めるべきとしても、キリスト教的価値観からすれば認められないイスラム教徒の振る舞い(特に女性を尊重しないこと)を、見て見ないふりをすることはできない。リベラルはなぜかイスラムの女性に対する扱いを容認するようですが、リベラルの自壊ではないでしょうか。
ひるがえってポピュリズムという言葉ですが、多様性の擁護とキリスト教的正義が対立するときに、多様性を擁護しないのはポピュリズムである、というのは明らかにエリートからの見下した言い方ですね。
このようにオランダのポピュリズムは、理論的にも水準が高く、単なる自分の国が大事ということではなく本質的な点をついている。
とりわけ、オランダのフォルタインという、労働党出身の性的マイノリティーが、転向して西洋的、啓蒙主義の理念による普遍的価値観からイスラムを批判するというのは、一本筋が通っています。そしてそのフォルタインが暗殺された後、その衣鉢を継いだウィルデルスの自由党も興味深い。
あと、ヨーロッパ独自のポピュリズム勢力増大の理由として、欧州議会の活用ということがある(第7章)というのも有益な情報でした。
いろいろ示唆されることの多い本でした。