緊急事態宣言により休館していた図書館が再開され、かなり以前に予約していた本が2冊到着したというので、さっそく借りて読みました。
この2冊は、不動産の販売、マスメディアと、仕事をテーマにした小説でしたのでここで並んで取り上げることにします。
「狭小邸宅」は、ブラック感溢れる不動産会社に勤務する若手サラリーマンのが主人公です。仕事には希望が持てないが、やめることもなく会社にしがみつく毎日。ただ、なぜか彼女ができて、それが生きる希望になっているのですが、それでもやはり先が見えない。
途中で主人公は別の支店に転勤することになり、その支店でも当初は全く家を売ることができなかったのですが、あと1ヵ月、と区切って、それまでこの支店の誰も売ることができなかった物件を売ることができ、そこから主人公の周りの空気が動くようになります。それまで主人公に対し冷ややかだった課長が同行してセールスをするところ(119頁)から、主人公の視界が大きく開けるようになりましたが、ここの爽快感が大変印象に残っています。ただ、一方で主人公は変化することで大切なものも失うのですが。
「歪んだ波紋」は、マスメディアが舞台ですが、これまでだとスクープをとることに熱意を費やした記者の肖像などが定番でしたが、この連作は「誤報」がテーマになっています。なかなかむつかしい問題ですが、今の時代にぴったり合った印象でした。