弁護士大久保康弘のブログ

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読書記録 「サガレン」梯久美子

最近読んだ本の中から梯久美子「サガレン」を紹介します。


この本の著書である梯久美子さんの本は、「散るぞ悲しき」「狂うひと」など何冊か読んでいますがいずれも読み応えがありました。

今回のこの「サガレン」はサハリン紀行。著者は女性には珍しい鉄道ファンとのことで、この本にも宮脇俊三氏や徳田耕一氏の名前が出てきます。

サハリンへの旅は前半と後半に分かれていますが、前半は鉄道、後半は宮沢賢治の旅の跡を追う内容になっています。


この本を読んで一番驚いたのが、宮沢賢治の旅を追う第二部の「青森挽歌の謎」という章です。


宮沢賢治は、花巻から樺太に行く際、最初に東北本線で青森まで行き、その時に書かれたのがこの「青森挽歌」なのですが、その中に、「わたくしの汽車は北へ走つてゐるはずなのに ここではみなみにかけてゐる」という部分があり、その部分の解釈が問題となっています(165頁)。


そこではこれまでの先行研究が引用されていますが、それらは、

「列車の軌道上、花巻から青森までの北帰行に、南へ走ることはまず有り得ない」として、方角が意味を喪失するとしたり、

疲労して意識が朦朧としている時の方向感覚」

としたりしたもので、花巻から青森までの間に南に向かうことはあり得ないことを前提としています。

しかし、話はもっと単純で

花巻から東北本線で青森へ向かう際、南下する区間がある、というだけのことだと著者は書いています。

その区間の地図を貼っておきます。



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ちょっと薄いですが、青森から野内、浅虫を経由する青い線が旧東北本線(現青い森鉄道)で、浅虫から青森まで向かう場合、南に向かって走ることが分かると思います。

もちろん地図は昔からあったわけで、ちょっと地図を見さえすれば東北本線で青森に向かう際に南に向かう区間があることが分かります。

以前の研究者は地図を開いて見ることもしなかったのか、と鉄道ファンの端くれとして残念に思いました。


この箇所を読んで連想したのが、東海道新幹線で東京から大阪に向かう際、富士山が見えるのは進行方向右手の車窓ですが、左手の車窓から見えることが「有り得ない」かというと、そんなことはなく、ほんの短時間ですが見えるのです。このことも連想してしまいました。