弁護士大久保康弘のブログ

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歳を重ね痛切に感じる小説 谷川直子「あなたがはいというから」朝倉かすみ「平場の月」

年齢を重ねないと分からないことがあります。早く目が覚め過ぎることなど、ほんの少し前には自分がそうなるとは思いもよらなかったことです。目が覚めても寝足りないわけですから、その分をどこかで補わないと辛い。昼食の後は眠るようにしていますが、電話で起こされる時もあり、なかなか帳尻合わせは難しい。
このように年齢を重ねて分かるのは、中年以降の人物を主人公にした小説も同じです。最近読んだ2冊の小説もそのようなものでした。
まずは谷川直子「あなたがはいというから」。
大学時代に恋人だった2人が、37年振りに再会し、という話ですが、つまり主人公は60歳なのですね。
再会して気持ちが通じ合うのですが、かなり苦いものがあります。パリに行く場面があるのですが、これは小説の読ませどころというよりも、作者から主人公たちへの花向けのように思います。

もう一冊は、朝倉かすみの「平場の月」。こちらは中学時代の同級生に50歳手前で再会する話。中学時代に男子から付き合ってと言ったものの、「いやです」「だれともいやなので」と言われ、そのままになっていたが35年振りに再会して、その後、というもの。こちらは「あなたがはいというから」に比べてかなり地味な展開ですが、それだけによりリアルです。
主人公の男性(青砥)と女性(須藤)は別れてしまいますが、それは、青砥が、「須藤、一緒にならないか」と言ってしまったから。これに対し須藤は、「それ言っちゃあかんやつ」と言うのです。
この須藤という人物の勁さに胸を打たれます。