この作品は日経に連載され2012年の直木賞を受賞していますが、これまで読んだことはなく、たまたま何か時代小説を読もうと思っていた時にこの作品に思い当たり、読み始めたのですが、ちょうどタイミングよくNHKの「日曜美術館」で「熱烈傑作ダンギ等伯」が放映されることを知り、それを見てから下巻を読みました。
等伯は能登に長谷川信春として生まれ、絵仏師として活動していましたが、やがて上洛します。
能登の時代は、信春が後の等伯であることすら最近証明されたことからも分かるように、記録はほとんどなく、ただ作品が残るのみです。
上洛した頃は、信長と浅井・朝倉が戦っていた頃で、この小説では等伯は戦乱に巻き込まれ、比叡山の焼き討ちにも居合わせ、そこで九死に一生を得ていましたが、このへんはフィクションなのでしょう。
最終章は、日本美術の最高峰のひとつである「松林図」の創作を描いています。早世した息子の久蔵の死の後で書かれたこの画を完成させるところで小説は終わっています。
「松林図」ですが、遠近法も使わず、奥行きが感じられない二次元的な当時の画の中で、ただひとつこの画だけは三次元的な奥行もあり、さらに三次元を超えて、時間軸まで含まれた四次元的なものを感じさせます。
ほとんど史料もないなかでよく等伯の人生をフィクションとして描いたと思います。