私が文庫本というものの存在を知ったのは中学生の頃でした。その前には親に買い与えられた子供向けの本や、子供向けの世界の文学を読んでいたのですが、自分で本屋に行くようになると安いこともあって文庫本に目が行くようになりました。
この当時は、新潮文庫、角川文庫、岩波文庫、創元推理文庫、というくらいしかなかったのですが、ちょうど講談社文庫が創刊されたのがこの頃だったと記憶しています。
文庫には「解説」がついており、多くの場合そちらを先に読んでから本文へ、というか解説だけ読んでそのままにしておいた本も多かったと記憶していまいます。
その解説にスポットをあてて1冊の本にするという斉藤美奈子さんらしいアイデア商品がこちら。
ただし、取り上げられた文庫本は、日本の近代文学がほとんどで、それ以外はサガン、チャンドラー、シェイクスピア、バーネットくらいで、著者の得意分野に偏ってしまったきらいがあります。
しかしここでも書かれていますが、伊豆の踊子や雪国のような作品が、なぜ小中学生の教科書に載っているのか、大人になってから改めて考えるとよく分かりません。こられは明らかに性的なことが主題となっているからです。
そして面白いのは文庫解説もやはりその点には触れていないことです。
「実際にはどういう話なのかには全く触れずに、適当な評価をする」という練習のための教材なのでしょうか。
また「走れメロス」も友情を高らかに歌い上げるものではないという指摘、小林秀雄の解説は純文学の解説と同じだという指摘も頷けます。
これらの近代文学の名作は全く一筋縄ではいかないものだ、ということが解説から浮かび上がってきたのが面白いところでした。