弁護士大久保康弘のブログ

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若き女王の戴冠 (平昌五輪 フィギュアスケート女子シングル)

さて今度はフィギュアスケート女子です。

 

ワールド・フィギュアスケート 81

ワールド・フィギュアスケート 81

 

女子の注目はロシアの天才少女2人、メドベデワとザギトワ。実際にも事前の予想通り、この二人の一騎打ちとなりましたが、怖ろしくレベルの高い、究極の戦い。壮絶な一騎打ちとなりました。

前回この二人の直接対決となったヨーロッパ選手権では、SPはメドベデワが最後の2Aで回転不足と、完璧な演技ができず78.57だったのに対し、ザギトワは3Lz+3Lo、3F、2Aと完璧な演技を披露し、メドベデワを上回るスコアを出していました。

 

<女子SP> 

今回のSPは2人とも完璧な演技でした。先にメドベデワがノクターンで演技。ヨーロッパ選手権でミスした2Aを決めて81.61と世界歴代最高を更新すると、そのわずか20分後にブラックスワンで演技したザギトワが82.92とさらに歴代最高を更新するという超ハイレベルな展開。

どちらも演技後半に3つジャンプを跳ぶ構成でしたが、さすがにザギトワの3Lz+3Loはベースの得点が12.21、加点を入れて13.71と3A以外の連続ジャンプとしては究極に近い得点となったのに対し、メドベデワはベースが10.56、加点を入れて11.96にとどまりました。そしてここでの1.75の差により、TESで2.11ザギトワが上回り、それがそのまま得点の差となり、ザギトワ1位、メドベデワ2位でSPを終えました。

 

日本の宮原、坂本の二人は素晴らしい演技で、宮原75.94、坂本73.18と2人ともパーソナルベストを更新し、最終グループ入りとなりました。SAYURIで演技した宮原は、衣装がジュニアのように見えることが欠点ですが、今回は回転不足がなく、スケアメの70.72ついに75点を出しました。坂本はロシア選手並みにジャンプを全部後半に入れる構成で、ベートーベンの月光で、前半のスローの部分でステップ、後半は、奔流のようなピアノの調べに乗って、力強く3Lz+3Tを決めて全てのジャンプを決めました。

 

日本の二人にとってメダル獲得へのライバルとなったのがカナダのオズモンドとイタリアのコストナー。オズモンドが78.87で3位、コストナーが73.15で6位。 最終グループはすべて70点台となりました。韓国のチェ・ダビンも67.77といい演技で8位。地元の観客を満足させる演技となりました。

他方でメダルの期待があったカナダのデールマンが68.90で7位、長洲未来は66.93で9位、ロシアのマリア・ソツコワは冒頭の3Lz+3Tでまさかの転倒で63.86と12位となりました。

 

<女子フリー>

さて一日空いた金曜日にフリーが行われました。

最終グループ前の演技でまず取り上げたいのはマリア・ソツコワ。おそらく現役で一番長身の彼女は、常にメドベデワに次ぐ存在でしたが、そのうちザギトワがジュニアから上がってきたことによりロシア第三の存在になってしまいました。SPでは冒頭ジャンプで転倒しSPは12位でしたが、フリーでは見事な演技を披露し134.24、トータル198.10とこの時点でトップに立ち最終順位は8位となりました。

予想を上回る出来で感心したのは韓国のチェ・ダビン。自国開催の五輪代表にふさわしい演技ができる選手が待ち望まれていましたが、見事にその重責を果たしました。ドクトルジバゴに合わせて優雅に舞い、後半で3Lz+3T+2Tの3連続ジャンプを決め131.49、トータル199.26とこの時点でトップ、最終順位も7位となり大健闘。

SP9位の長洲未来は冒頭の3Aが注目でしたが抜けてしまいました。フリーは119.61。トータルは186.54。と残念な結果でしたが、本人は悔いはない、といった表情でした。

さていよいよメダルがかかった最終グループの演技です。まず第一滑走は宮原。少しですが関大に寄付しており力が入りました。蝶々夫人ですが、SPに続いて全てのジャンプを綺麗に着氷し、久々にミスパーフェクトの名にふさわしい演技となりました。またステップが印象的でした。スケアメの143.31を超え、全日本の147.16はわずかに下回りましたが146.44と素晴らしい点数でトータル222.38でこの時点でトップに立ちました。

続いてはコストナー。何と4回目の五輪。今回も団体と同じ、青の部分が日本画の流れの表現に似た衣装です。牧神の午後の前奏曲はあまりフィギュアスケートでは使われないバレエ音楽で、ジャンプが決まらなかったものの、さすがの表現力でフリーは139.29。トータル212.44。5位。

坂本は、後半最初の3Lzがやや乱れ、もう一つ3Loも着氷が乱れてノーミスとはいきませんでしたが、後はしっかり決めて、中間部のあやつり人形のようなパントマイムを挟んで後半の曲の盛り上がりに合わせたジャンプで、アメリの世界をよく表現していました。少し首をかしげて笑顔で演技を終えました。スケアメの141.19全日本の139.92には及びませんでしたが、136.53は大健闘。トータル209.71で6位。素晴らしい成績でした。

さていよいよSPの上位3人の演技ですが、ここまで宮原が首位で、メダルをとれるかはオズモンドの出来次第となります。滑走順は、ザギトワ、オズモンド、メドベデワ。

 ザギトワはおなじみ赤いバレエ衣裳でのドン・キホーテ。前半はジャンプがないので間を持たせることが難しいのですが、個性的な動きで飽きさせることなく後半まで持たせます。後半のジャンプ大会の冒頭、3Lz+3Loを跳ぶべきところが3Lzの着氷でややバランスが悪くなり、セカンドがつけられず単独になってしまいました。さすがに重圧からの緊張か、と思いましたが、しかしその後の3Lzに無事3Loをつけてリカバリ。何事もなかったかのようにジャンプを続けていったのは凄いの一言。その後もジャンプを次々と重ねて圧巻の演技となりました。フリーは何と156.65、トータル239.57とものすごい得点を叩き出しました。

オズモンドは前半の3つ目ジャンプで着氷が乱れてしまい、これはどうかと思いましたが、後半立て直しうまくまとめました。そうなるとカナダの選手は点が伸びるんですね。何と150台に乗り、152.15というハイスコア。トータルで231.02は宮原を上回り、この時点で残念ながら宮原のメダルの可能性はほぼなくなりました。

さてついに最終滑走のメドベデワ。ザギトワの高得点を上回れるかどうか、一つでもミスが出ると超えられないので、緊張感が高まります。冒頭は単独の、そして次に3F+3Tの連続ジャンプを後半から前半に持ってきて跳びましたが、果たしてこれがどうでるか。後半の3連続も落ち着いて決め、最後まで力の入った入魂の演技でアンナカレーニナのドラマチックな世界を演じました。演技を終えて感極まって涙。フリーの得点は156.65とザギトワと同じ。しかしSPでザギトワにアドバンテージがあったので、トータルは238.26の高得点でしたが、ザギトワにわずか1.31及ばず銀メダル。金がザギトワ、銀がメドベデワ、銅がオズモンドとなりました。

 

<宮原の演技> 

さて宮原ですが、本当に惜しかった。できればメダルを取って欲しかったのですが、先に滑って自己ベストを出し首位に立って、それを超えられては仕方ないといえます。本人もノーミスで自分との戦いという面では勝ったという思いがあり、晴れやかな表情が印象的でした。昨年の今頃は故障でリハビリしていたので、よく復活できたという意味でも満足の演技でした。ただSPのピンクの衣装がジュニアのように見えるのと、フリーの蝶々夫人でもっと劇的な場面が欲しかったとは思いました。

 

<メドベデワとザギトワ>

この2人は同じエテリ・トゥトベリーゼコーチのもとで指導を受けており、メドベデワの方が2シーズン先にシニアに上がり世界選手権を2連覇し、その間ザギトワはジュニアでしたが、昨シーズンはジュニア史上最高得点を出すなどそれぞれのカテゴリを制覇してきて、今シーズン遂に同じシニアで激突することになり、グランプリシリーズで両者2連勝でファイナルに進出しました。しかしそこでメドベデワが足を疲労骨折したということで欠場、ロシア選手権も欠場したため初対決がヨーロッパ選手権まで持ち越しになりました。そして2人ともほぼ最高の状態で五輪を迎えることになりました。素晴らしい高いレベルでの勝負は手に汗握るもので、単にテレビの前で見ているだけで疲れ果てました。 

 

<ザギトワのプログラム>

 ザギトワは、ジュニアの頃はよく失敗していたので、大したことはないと思っていたのですが、今にして思えばあの失敗は、五輪シーズンに照準を合わせて、超高難度プログラムをずっとこなして行き五輪で完成させる、という壮大な計画の一環であることが分かりました。当初は本人の技術と体力が追いついていなかったが、ずっと続けていくうち、五輪シーズンに技術と体力が追いつき、ついに完成を見た、という恐るべき育成プログラムだったと思います。

このように後半に全てのジャンプを跳ぶプログラムを否定的に評価する人もいますが、このプログラムが怖ろしく困難なことは、他に誰もチャレンジする選手がいないことからも分かります。そしてそもそもフィギュアスケートはスポーツなのであり、その面が強調されるならこのような困難なプログラムに挑戦し、高い得点を狙うことはスポーツの精神にかなうといえるでしょう。困難に挑み、それを成し遂げたザギトワは称賛すべきで、金メダルに相応しい演技だったと思います。