弁護士大久保康弘のブログ

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王者の帰還 羽生結弦(平昌五輪 フィギュアスケート男子)

 

 

いやあ凄かったですね。王者の帰還、というにふさわしい演技でした。

特にショートプログラムでの圧倒的演技に、ネイサンチェンとコリヤダは完全に委縮してしまいました。何と恐ろしい、とその時思ったものでした。

 

羽生選手が怪我をしたのは昨年11月、大阪でのNHK杯直前の練習中でした。

このNHK杯、SPだけは何とかチケットが取れ、羽生選手が久々に見れるというので楽しみにしていましたが、けがで欠場となり、がっくり来たのでした。

その前年は、札幌でのNHK杯はパスして大阪での全日本を見に行く予定でしたが、インフルエンザで欠場したので、私が羽生選手の演技を生で見たのは、そのさらに前年の札幌での全日本ということになり、2年ほど見ていないことになります。

 

この日以降、羽生選手の情報は全く入ってこなくなりました。

この間、捻挫した右足の治療とともに、右足に負担をかけないような、氷上以外でのトレーニングを積んでいたのでしょうが、どのような日々を送っていたのでしょうか。おそらく後に、「羽生の90日」として語られる日々が明らかになるのでしょう。

 

ではまずSPから。先ほども述べたように凄い戦いとなりましたが、王者に焦点を当てる前に、個性豊かな選手たちの演技に触れることにしましょう。

まずはフィリピンのマルチネス君。ビールマンスピンが得意で羽生君より上手い。ユーリオンアイスというフィギュアスケートのアニメに、タイのピチェット君というのが出てきますが、このモデルになったのがマルチネス君ではないかと思います。ただし今回は残念ながらフリーには進めませんでした。

また注目していた選手の一人に、ラトビアのヴァシリエフス選手がいます。ヨーロッパ選手権では良かったのですが、今回は3Aが決まらず、フリーは第1グループになってしまいました。

SPで良かったのがビシェンコ、ブレジナ、リッポンのベテラン勢。それぞれメダル争いというレベルではないのですが、確固たる個性を発揮し、また実力を出し切って楽しませてくれました。

田中刑事はまたも4Sを決めることができず、SPは80.05で20位となりました。

 

最終グループの前に出た選手のうち、メダル争いの可能性があったのがパトリック・チャンとロシアのアリエフ。しかしチャンはやはり3Aが鬼門で、今回も3Aでミスが出てしまいました。それでも90.01点で最終グループ入り。一方でアリエフは素晴らしい演技。98.98で、一躍メダルの可能性が出てきました。

 

さて最終グループは、いきなり王者羽生選手の登場。そして滑走順はチェン、コリヤダ、宇野選手、フェルナンデスの順で、ボーヤンジンが最終滑走となりましたが、この滑走順が大きな意味を持つことになりました。

 

フィギュアスケートは、自分の演技を披露するもので、対戦相手のある競技と違い、相手に関係なく自分のベストを尽くせばいいはずですが、今回の男子シングルを見ればそのように言えないことが分かります。

そして今大会で、まさにフィギュアスケートが格闘技だと思わせる場面を見ました。

ショートプログラムでの羽生選手の演技は圧巻で、まさに絶対王者の帰還でした。冒頭の4Sを決めるまでは、見ている方も不安があったのですが、それを一掃するような見事な着氷。本人もこれで行けるとなったのでしょう、ものすごい気迫で、後半の3A、4T+3Tと、すべてのジャンプを見事に決める圧巻の演技。全てを自分の支配下に置き、見る者全てを制圧する演技となり、111.68と高い得点を出しました。まさに、「王者の帰還」というべき圧巻の演技となりました。

そしてこの帰還した王者の咆哮に完全に平伏したのがネイサン・チェン。冒頭4Lzで転倒、4Tも乱れコンビネーションにならず、3Aも決まらずで、信じられない演技、82.27と低い得点となってしまい17位。実況が「どうしたネイサン!」とまるでボクシングのようになってしまっていましたがそれも仕方ないでしょう。

そしてコリヤダも同じく飲まれてしまいました。冒頭が抜け、4Tでも転倒。こじんまりした演技となってしまい、86.69で8位になりました。

 

宇野選手の番になってようやく落ち着いてきました。4Fを決め、他のジャンプも決める素晴らしい演技で104.17と3位。続くフェルナンデスが107.58、最終滑走のボーヤン・ジン103.32と3人連続で100点越えとなりましたが、ただ羽生選手には及びませんでした。金メダル争いはこの4人に絞られました。

 

さて翌日に早くもフリーが行われました。

最終グループはアリエフ、パトリックチャン、ボーヤンジンの順。

アリエフは昨日とは一変して緊張が感じられ、ジャンプの失敗が目立ち168.53、トータル267.51。7位

チャンは 4Tを決めたのですが転倒し、ここでメダルの可能性が消えてしまいました。173.42、トータル263.43で最終順位は9位。

ボーヤンはスターウォーズで冒頭から難しいジャンプを決めていましたが、残念ながら転倒。しかし194.45、トータル297.77でメダル争いに踏みとどまりました。

 

そしてベスト3の登場。

羽生選手は、直前の練習での4回転サルコーは決まっていなかったのですが、いざ演技となると、冒頭の4回転サルコーを見事に決めると、前半のジャンプを綺麗に決めていきます。ただ心配は、体力が演技の最後まで持つかどうかでした。後半で再び4回転サルコーのコンビネーションを成功させた後、続く4本目の4回転ジャンプ、4回転トウループは着氷が乱れコンビネーションになりませんでした。しかし続くトリプルアクセルを3連続にしたことで再び波に乗り、力強さを取り戻していよいよラストの3回転ルッツ。このジャンプはシニアに上がった頃は、しばしば体力が尽きて転倒していましたが、今回は着氷が乱れても絶対に立つんだというものすごい執念で、見事に立ってみせました。その後のステップは嵐のようで、最後のポーズを決めた瞬間、金メダルの可能性を確実なものとしました。

フェルナンデスも子気味よく回転がコンパクトなジャンプを次々と決めていったのですが、後半の4Sが抜けて2回転に。これで10点くらい失ってしまうので、SPでのビハインドも考えればここで金メダルの可能性がなくなった。197.66 305.24

 

宇野選手は最終滑走で逆転のチャンスもあったため緊張したようですが、冒頭で転倒したことで、逆に落ちついた演技ができました。素晴らしいことです。202.73と200超えを果たし、306.90とフェルナンデスを抜いて銀メダルとなりました。

日本選手の金、銀となりました。 

 

メダルを取った選手以外で印象に残ったのはネイサン・チェン選手のフリー。

ショートプログラムでは羽生選手の王者の咆吼に倒されてしまった感がありましたが、フリーでは打って変わって伸び伸びとした演技で、次々と高難度の4回転ジャンプを決め、何とフリーでは羽生選手を上回る215.08で1位。トータルでも297.35で5位。見事な巻き返しに、ソチでの浅田真央選手みたい、という声も多かったのですが、フリーの曲がMao's Last Dancerということを知ると、なるほどと思います。

 

また個性的なダンスを披露したのが、アメリカのアダム・リッポンとカナダのキーガン・メッシングの両選手。リッポンはダンサーの体型でコンテンポラリーダンスの表現が見事で、特にフリーの、傷付いた鳥が飛び立つさまを表現する世界観は素晴らしい。一方のメッシングは、ショートプログラムが「雨に歌えば」、フリーがチャップリンという、古き良きミュージカルの世界を見事に表現していました。

 

このように、男子シングルは熱のこもった素晴らしい戦いでした。さあ今週は女子シングルです。また全部見てしまうことになると思います。