弁護士大久保康弘のブログ

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藤田嗣治展@兵庫県立美術館

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兵庫県立美術館藤田嗣治の展覧会が開催されています(9月22日まで)。先日観てきましたので、感想を書きます。

長く生きた画家の場合、各時代毎に画風が変わっていくのはある意味当然のことですが、藤田の場合、初期のパリでの猫や女性を描いた白い絵から、戦時中の戦争画への転換があまりにも極端です。

まずはエコール・ド・パリの時代。乳白色を基調とし、油彩の画としては珍しい黒で輪郭を描いた女性の画が目立ちます。

一見油彩画とは見えないような画ですが、藤田がこのような画を描くようになったのは、本人によれば、

「それじゃ俺はつるつるの絵を描いてみよう。また外の者がバン・ドンゲンというような画を大刷毛で描くならば、俺は小さな面相、真書のような筆で画いてみよう。また複雑な綺麗な色をマチスのように附けて画とするなら、自分だけは白黒だけで、油画でも作り上げてみせようという風に、すべての画家のなす仕事の反対反対とねらって着手実行したのである」(「腕一本」より)

とのことで、あえて主流と反対のことをした結果、あの独特の画風ができたということになります。

このような乳白色の画を見ながら、会場の奥へ進んでいくと、奥の方に巨大な暗い色の絵が見えてきて、何やら邪悪な気配を漂わせています。そう、これが「アッツ島玉砕」です。

その他に「ソロモン海戦に於ける米兵の末路」「サイパン島同胞臣節を全うす」という戦争画もあり、いずれもとてつもなく暗い画面で、特に後者では悲惨な場面が描かれます。

このような戦争画を描いた時期は、藤田が日本の画壇に受け容れられたわずか5年の間ですが、その時期が、藤田がその生涯において唯一、日本の画壇に受け容れられた時期だったというのが何とも皮肉です。これらの戦争画戦後60年に亘り封印されてきましたが、21世紀になりようやく目にすることができるようになりました。

戦争画の中で、特にアッツ島玉砕」は凄まじく、いったい何人の兵がいて、何人の死体があるのかわからないくらい密集した状態で、画からはうめき声が聞こえてくるようで、見ていると次第に心拍数が上昇してくるのですが、離れることが困難なほどで、体調に変調をきたすほどの負のパワーに溢れています。

ようやく戦争画の前から離れると、その部屋には2枚だけ戦後の画があり、ほっとさせられます。

最後の展示室は晩年の宗教画が中心ですが、救いを求めた藤田の心境が分かります。

今回の展覧会は、この「アッツ島玉砕」が見られるのであれば、ということで見に行ったのですが、戦争画は想像以上に強烈な負のパワーがありました。しかしこのように負のパワーを持つものもまた芸術ではないでしょうか。元気をもらったり、幸せな気分になったりするものがもてはやされている近頃ですが、このように毒になるものにも接することが大事なのではないでしょうか。