ジャニーズ問題はBB Cの報道で火がつきましたが、松尾潔氏のジャニーズ批判から発生した契約終了問題について、山下達郎氏がジャニーズ事務所を擁護する立場を明らかにしたことから、意外な方向に飛び火しています。
山下達郎氏がジャニーズのタレントにかなり曲を提供していたことは以前から知られていましたが、今なおジャニーズ批判の時流に乗らないで、ジャニーズを擁護したことから、山下達郎氏自身の曲を聞かないという人まで出てくる状況となってしまいました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/452ca0e0df524a02f1538bca3555f63208a147c9
山下達郎氏のこの問題から導き出されるのは、我々が聞いているのは音楽そのものか、音楽の作者の人格や、行動なのかという問題です。
この問題では、今から9年前にあった、佐村河内騒動が思い起こされます。
先日、たまたま図書館に行った時、この本を見つけて読みました。
この本の著書新垣隆氏は、佐村河内守氏のゴーストライターだった方です。
この本が出たのは2015年、佐村河内騒動は高橋大輔のソチ五輪の前ですから2014年で、もう9年前になります。
なお佐村河内騒動を書いた本としては次のものが決定版です。
これはかなり以前に読みました。
新垣氏の著書も、いろいろ興味深い点があり、例えば、2013年10月に「新潮45」 11月号に掲載された、音楽評論家野口剛夫氏の「全聾の天才作曲家 佐村河内守は本物か」という記事が出たときの反応などはなかなか面白いものでした。
その後、2014年2月6日発売の週刊文春に、
「全聾の作曲家佐村河内守はペテン師だった」という
記事が出たことが決定的でした。
発売前の2月5日に佐村河内氏の謝罪文が発表され、
2月13日、ゴーストライター新垣氏の謝罪会見が行われました。
その後、「交響曲第1番HIROSHIMA」の演奏ツアーは打ち切られました。高橋大輔のソチ五輪のSPの曲は変更されず、ただ作者がunknownとされました。
佐村河内騒動の論点は以下のようなものでしょう。
1.佐村河内氏は文春砲以前に言われていたような「天才作曲家」ではなかった。佐村河内氏の作曲とされる交響曲第1番HIROSHIMA」は本物のクラシック音楽として評価されるべきものではない。
2.佐村河内氏は、自称していたように耳が不自由ではなかった。またNHKスペシャルでの作曲の苦悩は全くの虚偽であった。
3,佐村河内氏が書いたとしていた曲は自身が作曲したものではなく、新垣隆氏が書いたものであった。
1は純粋に音楽の評価の問題で、前述した野口氏の文など評価の低いものもあれば高く評価した人(吉松隆氏など)もいるという状況でした。新垣氏本人は、「サブカル」としています。
また3は事実だと思われますが、例えば高名な師匠が作ったとされている曲が、実は無名の弟子が了解の上作ったものである、ということはこれまでにもあったと思われるので、3だけでこの件が非難されるべきものではないのではないでしょうか。問題は2で、前述の野口氏の記事、週刊文春の記事のいずれも、「全聾の作曲家」とある点が決定的で、これが虚偽だとすると許されないということでしょう。
ただ、「交響曲第1番HIROSHIMA」を聞いた人の中でも感動した人はなかりいるはずで、また私自身も高橋大輔のソチ五輪のSP曲はいい曲だと思いました。問題はその感動は何によるものか、ということです。
米TIME誌と、NHKスペシャル「魂の旋律〜音を失った作曲家」2013年3月31日によって持ち上げられたことでできた佐村河内氏の虚像から生じる感動もあるのでしょうか。ただ、新垣氏の著書にもありましたが、今どき3楽章、1時間10分にも及ぶ大作に聴衆が聞き入っていたのですから、音楽そのものに力があったのではないでしょうか。
話を山下達郎氏に戻すと、別に今ジャニーズ事務所の側に立つということが、それほど非難されることか、というだけの気がします。作者の人格がどう音楽に影響するかは、佐村河内騒動の方が考えさせられると思います。